【半導体業界の巨人TSMCとは?】日本の工場誘致は業界再興の神風となるか

世界最大のファウンドリであるTSMC。半導体業界の巨人と言われています。
現在、日本でも熊本県に同社の工場が2022年に着工、2024年に稼働が予定されています。
日本半導体業界への影響・関係を含めてTSMCを徹底解説していきます。

この記事で分かること
・TSMCとは
・TSMCと日本半導体業界の関係
・TSMCの株価について
目次

TSMCとは

1987年アメリカ合衆国のテキサス・インスツルメンツの上級副社長だった張忠謀(モリス・チャン)が孫運璿に招かれた台湾で創業。2002年には半導体生産トップ10、2014年には半導体売り上げ3位に入り、初めて全世界のファウンドリチップ製造量の半分を超え、世界最大の半導体製造ファウンドリとなりました。

台湾証券取引所、ニューヨーク証券取引所に上場している。
世界初の専業ファウンドリである。かつて富士通や東芝などの日系メーカーも受託生産を行うことがあったが事業としてはTSMCが成立させました。

顧客企業はクアルコム、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、NVIDIA、Apple、などで、製造ラインを持たない企業(ファブレス)が多く、数百社に上ります。

近年ではナノスケールの微細化を先導しており、インテルやルネサスなど自前の製造能力を持つメーカー(垂直統合型デバイスメーカー)も顧客企業

台湾は、1661年に鄭成功が制圧するまではオランダ植民地だったことから、いまでもオランダと縁が深く、TSMCは1987年に工業技術研究院とオランダのフィリップスが提携して創業しました。

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時価総額はトヨタ以上

2022年1月。トヨタ自動車が初の時価総額40兆円を超えました。もちろん日本ではTOPです。
TSMCの時価総額はトヨタを優に超える約65兆円。

他社から受託して半導体を生産するファウンドリーの市場で60%のシェアを占め、2位のサムスン電子(13%)を大きく引き離しています。

台湾には、この他にも聯華電子(UMC)、力晶科技(パワーチップ)、世界先進積体電路(バンガード・インターナショナル・セミコンダクター)など有力なファウンドリーがありますが、TSMCの規模が群を抜いています。

TSMC5つの強み

①微細化技術

世界のファウンドリーの微細化の技術力を比べると、7ナノで生産できるのは、2021年時点で、台湾のTSMC、韓国のサムスン電子、米国のグローバルファウンドリーズ、中国の中芯国際集成電路製造(SMIC)、そして韓国のSKハイニックスの5社。

さらに細かい5ナノになると、グローバルファウンドリーズ、SMIC、SKが脱落し、TSMCとサムスンの2社が残る。その先の3ナノで量産段階に入っているのはTSMCだけです。

さらに2021年には2ナノの新工場の建設を始めました。
1ナノメートルとは1メートルの10億分の1で、原子を10個並べたほどの長さです。

病原体のウイルスよりさらに小さい極小の世界で、TSMCは微細技術で独走しています。

 

微細化のメリット
多数のトランジスタを1チップに多数詰め込むために、1個のトランジスタをできるだけ小さくする方が都合は良い。トランジスタは小さくすればするほど性能が上がり、消費電力は低くなる、という特長を持つ。

 

②世界の半導体企業とのネットワーク

TSMCに生産を委ねる企業は世界に約500社あり、TSMCはこれらの企業との取引を通して、世界の需要を把握しています。市場から遠い分野でありながら、実際には市場の動向を正確に掴むことができます。

③圧倒的な事業投資

そもそもファウンドリーとは、TSMC創業者のモリス・チャン(張忠謀)が発展させたビジネスモデルです。
製造と開発・設計を分離することで、1社が背負う投資リスクを減らすという特徴があります。

モリスン・チャンは前述した通り台湾当局と一体となり、欧州のフィリップスを皮切りに米国の主な半導体メーカーから次々と受注を獲得していきました。

稼いでは投資し、投資しては稼ぐ。時には借りて投資する。そして、もっと稼いでもっと投資する。2020年の売上高は5兆円を超えるが、2021年の設備投資額も3兆円の規模を想定し、同年から3年間に予定する投資額は合計11兆円に上ります。

④突出した技術人材を擁する

TSMCは台湾のベスト&ブライテストの才能が集まり、突出したエンジニア集団を形成しています。

台湾・中国の産業に詳しいアジア経済研究所の川上桃子は、競争力の源泉の一つが技術人材の厚みだと言います。たしかにいくら資金があっても、技術がなければ成長はできません。
TSMCは技術者を大切にする会社で、エンジニアが得る報酬は、日本企業の3倍とも4倍とも言われています。

HINT
ベスト・アンド・ブライテスト(the Best and the Brightest)は、「最良の、最も聡明な人々」を意味します。

⑤徹底した情報管理

堅牢な情報管理システムを社内で築いていて、ライバル同士である顧客企業の情報がTSMCの内部で交わることがありません。
現場の従業員から経営上層部に至るまでアクセスできる情報が決められ、厳格にログが取られています
顧客である半導体メーカーの信用を失えば、チャンが築いたビジネスモデルは一瞬にして破綻する。細心の注意を払って社内に築かれた堅牢な情報のファイアウオールが、信用を担保しています。

TSMCは現状の半導体業界でヒト・モノ・カネ・情報を掌握し、圧倒的な地位を築いています。
技術力についてもTSMCは比類なく、アメリカは自国の半導体エコシステムを盤石にする為に、アリゾナにTSMCを誘致することに成功しました。

そして日本にも2022年TSMCの工場が着工します。
次はTSMCと日本の関係を考察します。

TSMCと日本半導体業界の関係

2022年に着工、2024年に稼働予定のTSMCの日本工場建設への総投資額は7000〜8000億円にのぼる見通し。

ソニーが少額出資を検討していると伝えられていますが、日本政府が最大で総投資額の50%、金額にして最大4000億円を補助する方向で調整しています。
この莫大な特別支出の財源は、2021年10月末の衆院選後に編成する2021年度補正予算案に盛り込まれ、通過しました。

東大とTSMC

2019年11月。アメリカ政府がTSMCの誘致を検討しているというニュースを差し置いて、大きな注目を集めたのが東京大学とTSMCが発表した先端半導体技術の共同研究のための提携でした。

この「東京大学・TSMC 先進半導体アライアンス」では、東大に新たに研究センター「d.lab(ディーラボ)」が設立され、TSMCはd.labに試作支援プログラムを提供。d.labは、チップ設計の工程にTSMCのオープン・イノベーション・プラットフォームを採用した。また、双方の研究者による共同研究のためのプラットフォームを構築。材料、物理、化学など他の領域でも協力し半導体の微細化を進めていくとともに、半導体技術全体のさらなる革新につながる他のアプローチも模索しています。

両者の提携について東京大学総長(当時)の五神真氏は「知識集約型社会へのパラダイムシフトを目指す日本の産業界が、本アライアンスを活用して世界最先端の半導体製造工場とつながることは、Society5.0 のいち早い実現に資するもの」とコメントした。また、TSMC会長の劉徳音(マーク・リュウ)氏は「半導体産業では技術向上のためにさまざまな方法が模索されており、TSMC は世界中の一流学術機関と積極的に提携している。TSMCの半導体産業における役割は、より多くのイノべーターが力を発揮できるよう支援することだ。TSMCと東京大学の提携により、多くのイノベーティブなアイデアが製品へと結びつけられることを確信している」 と期待を寄せました。

その後、新型コロナウイルスの流行が本格化し、世界中が半導体不足に悩まされるなか、その水面下で半導体分野における日台の協力関係は深められていった。TSMCは2021年2月の取締役会で、研究拡大に向け日本に100%子会社を設立することを決定。研究開発拠点が茨城県つくば市に置かれることになり、日本とTSMCの関係強化に大きく寄与しました。

そして2020年8月には研究センター(d.lab ディーラボ)に続き、先端システムデザイン技術組合(RaaS ラース)が発足しました。

・d.lab ディーラボ
会員制で企業の参画を募り、知見の共有と課題解決に向けた技術者の公園。
・RaaS ラース
個別の企業と東大・TSMCが具体的な技術開発を、外部非公開で進める。
※参画企業
(ミライズテクノロジーズ、パナソニック、日立製作所、凸版印刷等)
ラースメンバーは日本企業に限られる。

ディーラボが目指す半導体の民主化

半導体ビジネスが安価な汎用チップを大量生産するフェーズから、特注少量の専用チップの生産に移行しています。
しかし、専用チップには時間も費用も膨大にかかる問題があります。

ディーラボが目指すのはコンピューターによる半導体の自動設計。
ソフトウェアを作るようにプログラミングすることで、自動的に半導体チップができるようなツールの構築です。

このツールがあれば半導体開発は米国を中心としたファブレス企業の独壇場から、様々な企業が自前で半導体を手にすることができます。

半導体が社会のインフラになる現在、誰でも半導体の技術にアクセスできる。
そのような世界を半導体の民主化と呼び、これを目指しています。

日本の工場誘致は半導体業界の神風となるか

TSMCの誘致について、日本のメディアからは日本の半導体産業の復興への足がかりになるのではないかという期待の声も聞かれます。

日本の半導体産業はかつて50%以上の世界シェアを誇る基幹産業でしたが、現在は大きく衰退し10%前後にまで落ち込みました。

現在、半導体産業における日本の強みは「前工程」と「後工程」に分けられる製造プロセスのうち、パッケージング等の「後工程」にあります。

一方、TSMCは受託生産で世界最大手にまで成長し、ロジック半導体の製造において最高水準の製造技術を持っています。

TSMCの工場誘致が、日本の半導体業界の神風となるか。

今の日本にはビッグテックと呼ばれる企業はありません。
しかし、人口問題、高齢化、気候変動による災害など課題先進国であります。

このような将来世界的に訪れるであろう課題について当事者として半導体の活用用途を提起できる。その課題解決に向けて世界最強のファウンドリーと連携できることは、日本の半導体業界再興につながるのではないでしょうか。

TSMCの株価について

Bloomberg.co.jp
TSM:New York 株価 - 台湾積体電路製造 [TSMC/台湾セ 台湾積体電路製造 [TSMC/台湾セ (TSM:New York) の株価、株式情報、チャート、関連ニュースなど、企業概要や株価の分析をご覧いただけます。

リンク:ブルームバーグ

Good
TSMCは2022年の設備投資額が最大440億ドル(約5兆円)に達すると発表した。21年比で4割強増え、過去最高額になる。

5年前の17年比では4倍の水準になる。現在の最先端品より、さらに2世代先の技術となる「2ナノ品」の新工場を年内に台湾で着工します。

微細化技術競争においての優位性を一段と引き上げる。

引用:日本経済新聞

Bad
米中の半導体をめぐる地政学リスクに注意する必要があり、台湾本土から生産拠点を分散化するなどのリスクヘッジが必要。

まとめ

この20年で半導体の技術開発や先端工場の運営に必要な資金は大きく膨れ上がりました。
政府が掲げている10兆円規模の官民投資も「本当に再興を目指すなら妥当な規模」(業界首脳)との声もあります。

経産省は21年11月に公開した今後の半導体戦略の方向性で国内外の連携強化をあげ、日本の国家戦略としてもTSMCの存在感は今後も増していくことは疑いない事実ではないでしょうか。

本記事が、製造業に携わり半導体業界再興に期待するあなたの参考になれば幸いです。

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この記事を書いた人

IT業界で製造領域に携り7年

業界知識や課題、採用、転職、お金にまつわることなど、
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