【円安が製造業にもたらす影響とは?】産業構造につていも解説!

円安が進み、輸入物価が上昇していることから、「悪い円安」ではないかと危惧されています。
工場の海外移転が進んだ日本では円安のメリットが発揮されにくく、デメリットの方が目立ちやすいですがですが、
為替が安くなれば、日本の賃金も相対的に安くなるので、工場を国内に戻すという選択肢が出てきます。
今回は円安が製造業にもたらす影響と産業構造についても解説します。

この記事で分かること
・良い円安・悪い円安とは
・円安が製造業にどのような影響を与えるか
・円安から見る日本製造業の構造

目次

良い円安・悪い円安とは

円安にはメリットとデメリットの両面があります。

円安のメリット=国内製品の海外での価格競争力の向上
円安のデメリット=輸入コストの増加

結論、円安のメリットがデメリットを上回る時に良い円安、デメリットがメリットを上回る時、
一般的に「悪い円安」と言われます。

では、現在の円安は良い円安、悪い円安のどちらと考えられるのでしょうか。
円安のメリットである価格競争力の向上について見ると、海外生産比率の上昇によって、その影響が小さくなっています。
日本国内で生産したモノを海外に販売すると、円の価値が安い分、価格競争力を持つことになりますが、製造業の海外生産比率が上昇することで、円安のメリットを享受しにくい構造へと変わってきています。

一方で、デメリットについて見ると、資源価格が高騰する中で、円安が円建てでの輸入金額を更に押し上げることで、
資源調達コストの上昇に拍車をかけています。
このように、現在は円安のデメリットがメリットを上回る点が多く、悪い円安論が語られやすい状況になっています。
欧米において金融政策の正常化が進む一方で、日本では依然として緩和的な金融政策が続き、
為替は円安方向に向かいやすい環境になっています。

円安がもたらすコスト増は私たちの生活でも既に実感する場面が多いのではないでしょうか。

円安が製造業にどのような影響を与えるか

良い円安、悪い円安を理解したうえで、現在の円安が製造業にどのような影響を与えるか解説します。

円安がもたらす影響=輸出企業の利益=輸出と輸入の差分

理屈上、為替が安くなると、円ベースで見た輸出企業の売上高は増えます。
輸出企業は、製品のすべてを内製しているのではなく、原材料や部品を海外から輸入して、
国内で生産を行っているため、円安になると一連の仕入れ価格も上昇します。
実際に円安が進んで利益になるのは、輸出と輸入の差額分のみということになります。

これまで100円で部品や原材料を輸入し、完成品を200円で海外に売っていた場合、
その企業が獲得できていた差分(付加価値)は100円です。
ところが為替が10%の円安になった場合、輸入価格は110円に値上がりするものの、輸出価格も200円から220円に上がる。
差分は110円なので、当初の差分である100円よりも大きくなります。
これが円安で輸出企業が儲かる仕組みです。

近年、日本企業は積極的に生産拠点の海外移転を進めており、日本からの輸出は相対的に減少しています。
海外で生産した分については直接的に為替の影響を受けないので、円安のメリットを享受できません。
かつて円安は日本経済にとってメリットになると説明されていたにもかかわらず、
その認識が逆になってしまった最大の理由は、製造業が日本から出て行ってしまったからです。

生産拠点を海外に移転した場合でも、多少の円安メリットはあります。
たとえば米国に生産拠点を移した企業が、ある製品を1ドルで米国内で販売すると仮定すると、
為替が1ドル=100円だった場合、日本から見た売上高は100円です。
ここで日本円が10%安くなり1ドル=110円になったと仮定すると、米国内では相変わらず1ドルですが、
日本円ベースで見た売上高は110円に増えます。
企業の決算はすべての地域の事業を合算し、最終的に日本円ベースで作成されるので、
例え輸出していなくても(現地での販売が行われていれば)、円安になると収益は拡大します。

もっとも、決算書上での収益が多少増えたところで、日本経済全体への影響は限定的です。
輸出が経済に貢献するのは、輸出そのものに加え、当該製品を製造するための設備投資の影響が大きい。
現地生産の場合、設備投資は海外で行われるので、その資金は日本国内に落ちない。
加えて言うと、純粋な輸出についても、先ほど説明したように、利益になるのは輸入と輸出の差分だけなので、
輸出の数量が増えない限り、大きな利益になりません。
つまり、円安のメリットを100%生かすためには、輸出の数量を増やす必要があります。

輸出の数量が増えるには

円安になると輸出の数量が増えるメカニズムは、一般的には以下の通りです。
1ドル=100円の状態で、ある企業が製品を1ドルで輸出していたと仮定します。
為替が1ドル=120円になると、日本円ベースでの売上高が120円に増えるというのは先ほど示しました。

輸出企業にはここで2つの選択肢が生じます。1つは、今のままビジネスを続け、2割の増収というメリットを享受するというもの。
もう1つは、思い切って値下げを行い、たとえば0.83ドルで製品を販売するというものです。

0.83ドルに値下げすると、日本円ベースでの売上高は99.6円(1ドル=120円の為替レートを0.83ドルに適用)となり、
1ドル=100円時代の売上高である100円とほぼ同じになります。
このままでは何も変わらないが、価格を下げたことで販売数量が大幅に伸びる可能性がある。
仮に価格を2割下げたことで販売数量が2倍になれば、日本円ベースでの売上高は約200円と倍増します。

さらに言えば、海外生産を行っている企業が、円安をきっかけに日本国内に生産拠点を戻す可能性もあります。
そうなると日本からの輸出は増えるので、輸出代金はもちろんのこと、設備投資も国内に落ちるようになり、日本人の所得が増えます。
生産拠点の国内回帰と値下げは異なる措置だが、日本からの輸出数量の増加をもたらすという点では同じことです。

つまり、円安によって得られる最大の効果は輸出数量の増加であり、これが実現しなければ、
本当の意味で円安メリットを享受したとは言えません。
企業が価格戦略を変更するまでには時間がかかるので、為替が円安になってから、
その効果が具現化するまでにはタイムラグがあります。
この時間差のことを経済学の世界では「Jカーブ効果」と呼んでいます。

このメカニズムが働くのであれば、当初は円安によって輸入品の価格上昇という弊害が発生するものの、
時間が経過すれば、輸出の数量増加を通じてメリットが大きくなってくるとの予想が成り立血ます。
円安による製造業復活を望む声は、このJカーブ効果を期待したものと考えられます。

円安から見る日本製造業の構造

トヨタ自動車は国内生産比率が高い方ですが、それでも年間生産台数816万台のうち、
国内で生産しているのは395万台と半分以下です。
日産の場合、国内生産比率はわずか13%に過ぎません。

海外生産が多い現状では円安のメリットを感じられない

企業の業績は現地法人をすべて包括したものなので、円安になれば日本円ベースでの売上高や利益が増加する。
だが、この話はあくまで企業決算の話であって、マクロ経済には別のメカニズムが働きます。
海外の現地法人で生産し、海外の顧客に販売しているケースでは、販売によって得たお金のほとんどは、
現地従業員の給与や各種経費の支払いなど、海外に落ちます。
利益についても、現地工場の更新などに用いられるので、多くが再投資され、日本には戻ってきません。

マクロ経済的に海外現地法人から得られるのは、本社に対して支払われる利子や配当、ライセンス料などがほとんどです。
金額としてそれほど大きいものではなく、何より国内の需要や雇用にはつながりません。
日本国内に工場があった時代は、製造業の業績が良くなると賃金が上昇し、これが国内の消費を誘発するので経済全体が上向いた。
だが海外生産の場合、賃上げを行っても、その賃金を受け取るのは現地の従業員なので、国内経済には寄与しないのです。

内閣府の調査によると、海外で現地生産を行う企業の割合(2020年度)は67.8%に達しており、
1990年(40.3%)と比較すると大幅に上昇しています。
工場の海外移転が進むにつれて、現地生産比率も上昇しており、2020年度は22.4%の製品が海外で作られた(1990年はわずか4.6%)。

ここまで海外生産比率が上昇すると、いくら企業単体としては利益が出ていても、
日本のマクロ経済に対する効果はかなり小さくなってしまいます。
これまでの議論は、製造業が円安によるメリットを受けにくくなっているという話であり、
これがマイナスの作用を及ぼすわけではない。だが円安には国内経済に対する直接的なデメリットが存在しており、
近年の日本経済においては、この影響が極めて大きくなっています。

企業は国内生産を増やすのか

企業が国内生産を行うか、海外生産を行うのかを決める要因となるのが賃金です。
単純に賃金が安ければ良いという話にはなりません。
いくら賃金が安くても、潜在的な生産力が低い国では、十分な成果を得られないからです。

どこの国や地域で生産するのが有利なのかを示す指標のひとつにユニット・レーバー・コスト(ULC)というものがあります。ULCは生産を1単位増やすのに必要となる労働コストのことを指します。
ULCは賃金と生産力の関係を示したものなので、ドルベースでULCを比較すれば、どの国で生産するのが有利なのかが一目瞭然である。

日本におけるドルベースのULCは、2008年以降、急激に進んだ円高によって大幅に上昇し、多くの日本企業が生産拠点をULCが低い中国に移管した。
ところが同じタイミングで中国の労働コストも上昇を開始し、日本と中国のULCの差が1.2倍を切った2013年以降、海外移転のペースは急激に鈍化している。

現在、日本と中国のULCを比較すると中国が日本に肉薄しており、日本の方がわずかに高いという状況だが、円安がさらに進めば、この関係が逆転する可能性が高くなる。
中国の労働コストが変わらないと仮定すると、筆者の試算では1ドル=150円まで円安が進むと、中国のULCが日本の1.2倍になる(両国の賃金についてはドルベースの雇用者報酬を用いて試算を行った)。

企業にとって生産拠点を変えることは、大きな負担となるため、多少、為替が動いたところで、すぐに生産拠点を変えたりしません。
過去の経緯から、両国のULCの差が1.2倍に拡大することが、ひとつの節目と仮定すると、
1ドル=150円というのがその目安ということになります。

一部の工場が国内に回帰すれば、輸入が減るので、日本の交易条件は改善します。
これまで海外の従業員に支払われていた賃金が国内に落ちるので、所得が増加し、
その分だけ消費の拡大が予想されます。

まとめ

円安が進んでいる昨今ですが、現在の日本では産業構造の変化から、
昭和時代のように輸入拡大で製造業が増収し、賃金が上昇。輸入品の価格が上がるデメリットを感じない。
というように、単純にメリットだけを享受できる時代ではありません。
今回は円安が製造業にもたらす影響を解説しましたが、
あなたの業界への理解の一助になったなら幸いです。

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この記事を書いた人

IT業界で製造領域に携り7年

業界知識や課題、採用、転職、お金にまつわることなど、
製造業界で働くあなたや、製造業界に関わるあなたへ
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「働くあなたを元気にしたい」をモットーに投稿していきます

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