なぜ自動車減産が続くのか?半導体不足と上海ロックダウンによる部品供給停滞について解説!

2022年5月の国内新車販売台数は前年同月比18.1%減の26万1433台で、11か月連続のマイナスとなりました。

半導体不足に加え、中国・上海のロックダウン(都市封鎖)で部品供給が停滞したことが響き、月間の販売台数としては緊急事態宣言が発令されていた2020年5月(21万8285台)以来の低水準でした。

上海は、中国で生産された自動車部品を海外に輸送するための物流拠点になっています。
ロックダウンの影響で上海港からの部品輸送が停滞し、日本の自動車メーカーの生産・販売が低迷しました。
ロックダウンは6月1日に事実上解除されましたが、「物流網が元に戻るのは夏以降ではないか」(国内大手メーカー関係者)との見方も出ており、生産・販売の本格的な回復には時間がかかる可能性があります。

今回は、そもそも半導体不足が起こっている原因と上海ロックダウンによる部品供給
停滞が自動車業界へ与える影響について解説します。

この記事で分かること
・半導体不足はなぜ起こっているか
・半導体不足になるとなぜ自動車を作れないのか
・上海ロックダウンによる部材供給停滞について
・今後の供給回復について

目次

半導体不足はなぜ起こっているか

半導体不足はいつから、なぜ起きているのか。結論からお伝えします。

・米中貿易摩擦の影響
・新型コロナウィルスの感染拡大
・新たな需要が発生している
・ウクライナ情勢による影響

この4つの理由が複合的に半導体不足を起こしています。
では一つ一つ解説します。

米中貿易摩擦の影響

半導体不足の発端となったのは米国と中国の貿易摩擦です。
世界的な半導体不足が露呈したのは2020年秋頃ですが、これは2019年から続く米中貿易摩擦による半導体不況に起因しています。

米中間の貿易摩擦によって、米国は中国企業への制裁を行うため規制を強化し、対象企業からの輸入は事前許可制となりました。その対象企業には中国の大手ファウンドリーの中芯国際集成電路製造(SMIC)が含まれていたため、中国から米国への半導体の輸出量は大幅に減少しました。
減少分の代替先として台湾の企業に発注したものの、半導体の調達先が限定されたことには変わりありません。リスク分散機能が低下していたなかで、台湾の半導体メーカーは受注に対応しきれなくなりました。これが現在も続く半導体不足の大きな引き金となっています。

新型コロナウィルスの感染拡大

新型コロナウィルスの感染拡大で多くの工場が閉鎖されたため、半導体製造に必要な物資が数ヶ月間入手できませんでした。
また、巣ごもり需要で家電製品の需要が増えたことで、サプライチェーンにも変化が起こりました。新たな需要に対応するために十分な量の半導体を作るのに苦労し、注文が山積みになっていき、受注残はどんどん増えています。

また、自動車メーカーは、自動車を生産するために必要な半導体の量を予測し、半導体メーカーに事前に発注しなければなりませんが、現在は民生用半導体の製造がメインとなっているなか、手に入れるには時間を要します。

一般家庭も大きく暮らしが変わり、学校ではノートパソコンやタブレットを使った学習が導入され、家にいる時間が増えたことでテレビやゲーム機などのホームエンターテインメントへの支出も増えました。
これらに加えて、5Gの普及やクラウドコンピューティングの継続的な成長により、自動車メーカーが手放した分の生産枠はあっという間に消費されていきました。

さらに、公共交通機関の利用を避ける目的などから、自動車の需要が増したため、自動車の動作制御を行うMCU(マイクロコントローラー)も不足しました。自動車向けの半導体の生産能力をパソコン用の半導体の生産に充てていた工場が多いことも、自動車メーカーへの影響が大きくなった要因に挙げられます。結果、自動車メーカーでは半導体不足により、減産や操業停止を余技なくされる事態に陥りました。

新たな需要が発生している

そもそもコロナ禍以前からPMICはスマートフォンの5Gへの移行によって品薄状態にありました。
また、新型コロナウイルスの感染拡大が後押しにはなりましたが、クラウドコンピューティングの継続的な成長によって、インフラに使用される製品の需要は増加していました。

さらに、産業機器の分野や、脱炭素社会の実現に向けた電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)なども顕著に需要が拡大しています。ガソリン車と比較すると、電気自動車やハイブリッド車は数倍の半導体を搭載するためです。

このほかに、ビットコインのマイニング需要によってグラフィックボードの需要が拡大したことなども、半導体不足に少なからず影響していると考えられます。

ウクライナ情勢による影響

ウクライナ情勢も半導体の供給に影響与えます。なぜなら半導体の製造に使われる、ネオンやクリプトン、キセノンといった希ガスやレアメタルの一部はロシアやウクライナから供給されているため、サプライチェーンへ影響する可能性が高いからです。

特にネオンガスに関しては世界の需要の7割をウクライナが担っているとされています。実際に過去には、2014年のロシアのクリミア併合の際にネオンガスの価格が6倍ほどに跳ね上がったことがありました。
また、ロシアによるウクライナ侵攻によって、ロシアとウクライナのネオンガスのサプライチェーンは寸断されているといわれています。

ただし、ウクライナからの供給リスクを踏まえて、ロシアによる侵攻前に関係企業が在庫の確保を行っていたことから、現時点では影響は顕在化していません。しかし、軍事侵攻の長期化によるサプライチェーンへの影響は引き続き懸念されるでしょう。

半導体不足になるとなぜ自動車を作れないのか

そもそも半導体は、自動車のどこに使われているのか。
昔のクルマは、アクセルペダルからワイヤーが延びており、それがスロットルバルブを機械的に開閉していました(自転車のブレーキと同じです)。ところが今では、アクセルペダルにセンサーが付いており、その電気信号をもとに、モーターでスロットルバルブを開け閉めしたり、燃料の噴射量を調整したりするようになっています。それを制御するECU(Electronic Control Unit)は、いわば「小さなコンピューター」。LSIが必須ですから、半導体がなければ作ることができません。
しかもエンジンだけでなく、電気で制御するもののほとんどにECUが使われています。たとえばパワーウインドウやワイパー、衝突軽減ブレーキなどの安全装置もECUで制御していますから、半導体がなければ動かすことができません。LED(発光ダイオード)にも半導体が必要ですから、メーターやスイッチの照明もできなくなります。
こうした部品がひとつ欠けただけで、完成車として売ることはできなくなりますから、半導体不足は自動車産業にとって、非常に深刻な問題なのです。

自動車産業における部品調達の契約は、他の産業とは大きく異なります。他の産業では、長期の拘束力のある契約(いわゆるテイク・オア・ペイ契約)が多く、半導体サプライヤーには6ヶ月から12ヶ月をはるかに超える発注書が出されます。

しかし、自動車産業のサプライチェーンは複雑でアウトソースが多いため、半導体チップ調達のコミットメントサイクルは短期化する傾向にあり、特に数週間から数ヶ月程度の拘束力のある購入契約が多いようです。

その結果、自動車産業は以前から安定した需要があると評価されていましたが、半導体メーカーは現在、他の即効性のある産業から、よりオーソドックスで長期的な契約を結んでいます。

手持ちの在庫を少なくすることで無駄を省き、効率を上げることができるジャストインタイム生産方式は、自動車のサプライチェーンで広く活用されています。
平時であれば在庫を減らすことは経済的にもメリットがありますが、予期せぬ欠品が発生した場合には、サプライチェーン全体の混乱を招くことになります。
多くのプレイヤーは、2020年と2021年の半導体不足を予想していなかったため、危機を乗り切るための在庫は非常に限られていたと考えられます。

上海ロックダウンによる部品供給停滞について

新型コロナウイルス感染拡大に伴う中国・上海市のロックダウン(都市封鎖)が国際物流に大きな影響を与えています。
日本の製造業に大打撃を与えている上海ロックダウン。なぜここまで部品供給が滞るの解説します。

ゼロコロナ政策

同政策は「大規模なPCR検査」「徹底的な隔離」「厳格な水際対策」の3本柱からなる。必ずしも感染ゼロを目指すものではなく、感染者が出た場合でも封じ込めと拡大防止に注力する方策。最近は「動態清零(ダイナミックゼロ)」という言葉を使うことが多いです。
国家衛生健康委員会によると、その定義は「感染源の積極的発見」「有効的な患者手当て」「重症化防止」「重症者と死亡者の減少」となります。

フルスペック型の封鎖

市民が散歩や買い物などでの外出は一切許されていない状況。
ほぼ唯一の食料調達源であるネットスーパーはアクセス過多で繋がらず、配送網もパンク状態。政府による物資配給も遅れ、市民生活に多大な影響が出ている。PCR検査での陽性者は軽症・無症状者でも強制隔離となるため、野戦病院の建設も相次義ました。
一部で医療崩壊状態も伝えられています。

トラック輸送の停滞

上海を含む地区をまたいで移動するトラック輸送に関しては規制が徹底しており、トラック運転手が道路へのアクセスを許可されるには、48時間のPCR検査結果、印刷された通行許可証、完全な行程表、そして荷物の配送先が必要となっています。
省を越えて走行する際の所要時間は延び、トラックの稼働率は悪化。すべての船会社で1日の搬入量が減少しています。

つまりゼロコロナ政策を行なっている限り、今後もロックダウンが起きる可能性が高く、フルスペック型の封鎖でそもそも市民が外出できない為、工場の操業ができず部品をせいさんできない。上海港へのトラック輸送も停滞する為、物流が遅延するという悪循環が起きていると言えます。

日本の自動車業界はコロナから立ち上がったように見えましたが思わぬ落とし穴がありました。
一刻も早い物流の正常化を期待します。

今後の供給回復について

半導体の供給回復

2021年5月11日にガートナーが発表した半導体市場の見通しによると、
2022年第2四半期から解消に向かうことが見込まれています。
プラス材料となるのは、多くの半導体メーカーが生産ラインの増強を表明していることです。
2022年夏から稼働する生産ラインもあるほか、半導体不足を警戒した商社が二重発注したものは2022年春頃から入荷されます。

ただし、半導体の需要は引き続き世界的に増加していることや、新たな変異株の出現による新型コロナウイルスの感染拡大が生産体制へ影響しサプライチェーンの混乱を招くリスクも懸念されます。
断続的とはいえ、2022年も半導体不足が継続する可能性は否めず、不確実性のある状況が続くことも考えられます。
このほかにも、半導体のチップ不足は2021年の第3四半期、あるいは第4四半期から解消へ向かいます。
チップが製品になるまでの製造期間を考慮すると、2022年での供給が見込まれることも不足解消の理由として挙げられます。

アメリカ

2021年2月の寒波の影響による大幅な電力不足から、テキサス州では多くの電力を使用する半導体工場が一時的な創業停止に追い込まれました。この寒波の影響による操業停止も、半導体不足に追い打ちをかける出来事となりました。
とはいえ、世界的な大手半導体メーカーは、2022年には半導体不足は解消するとの見通しを示しています。半導体不足が解消する時期について、米国のAMD社は2022年下期、米国のNVIDIA社と英国のARM社は2022年の下期と発表しています。

日本

2020年10月に旭化成エレクトロニクスの宮崎県延岡市の半導体製造工場、2021年3月にルネサス セミコンダクタ マニュファクチャリングの茨城県ひたちなか市の半導体製造工場(那珂工場)で、相次いで火災が起きたことも半導体不足の遠因となりました。

ルネサスの那珂工場は2021年6月に生産能力を回復していますが、旭化成エレクトロニクスの半導体製造工場は損傷の激しさから復旧を断念しました。旭化成エレクトロニクスでは他社での代替生産を行い、2022年度以降に新工場に関する方針を決定する予定とされています。

こうした状況のなか、日本国内の半導体の生産体制の強化を図るため、経済産業省の主導により、台湾のTSMC(台湾積体電路製造)の工場を誘致するプロジェクトが加速しました。2021年10月にTSMCが日本国内で初となる工場を建設、2024年からの稼働を目指すことが発表されています。

TSMCの新工場は熊本県内にソニーグループと共同で建設され、画像センサー用や車載用などの半導体の製造が行われる見通しとなっています。そのため、高性能のスマートフォン用の半導体の供給に関しては課題が残る形です。
また、TMSCの新工場の設立には、1兆円程度の費用がかかるとされていますが、最大で半額を日本が補助するとみられています。
ただし、日本の補助金を用いて海外メーカーの工場を誘致することは、国民から集めた税金が海外資本に流出することと同義です。
日本の半導体産業は、1980年代には世界で首位でした。しかし現状では1割程度まで低下し、先端半導体の製造を行う技術を持っていません。

TMSCに投じた資金を活かすには、先端半導体の製造を日本のメーカーに引き継いでいくことが望ましいですが、TSMCが撤退するリスクもまた懸念されるでしょう。

上海ロックダウン 物流の正常化

物流やサプライチェーンへの影響も長引きそうだ。上海のロックダウンによる通行制限で輸送網が寸断され、現場は混乱を極めています。
民間の物流トラックが政府の配給品配布用に接収され、市民のネット注文品の大幅配送遅延が起きるなどの事態もありました。
また、隣の江蘇省には電子系企業の工場が多数あり、上海経由での製品や部品の輸送が滞って出荷への影響や工場の稼働一時停止なども報告されています。
6月にロックダウンが解除されましたが、物流の正常化は夏頃になると予想します。

まとめ

2021年以降半導体不足により自動車生産の停滞がしばしば起こるようになりました。
さらに2022年には上海ロックダウンによる部品供給不足の影響で業界はWパンチを受けています。
「なぜ自動車減産が続くのか」を知ることは今の製造業界を理解することにつながります。
本記事が参考になったなら幸いです。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

IT業界で製造領域に携り7年

業界知識や課題、採用、転職、お金にまつわることなど、
製造業界で働くあなたや、製造業界に関わるあなたへ
知っておきたい情報をわかりやすくお伝えします
「働くあなたを元気にしたい」をモットーに投稿していきます

コメント

コメントする

目次