【パワー半導体とは?】自動車業界のEVシフト(電気自動車化)で次世代産業の要となるか!考察

全世界で旺盛な半導体需要が続いています。ロジック半導体、メモリー半導体と比べ、少し地味な印象を受けるパワー半導体ですが、自動車業界がガソリンエンジン車からEV(電気自動車)への転換・普及に合わせ、確実に需要が伸びると予想されています。
本記事はパワー半導体の基礎知識から業界構造、自動車業界との関係まで解説していきます。

 

この記事で分かること
・パワー半導体とは何か
・自動車業界との関係
・業界構造と今後の動向

 

目次

パワー半導体とは?

材料に半導体を用いたデバイスの中で、大きな電流や電力を扱うことを目的に作られたものをパワー半導体といいます。

明確な線引きはありませんが、おおむね定格電流が1A以上のものをパワー半導体と分類しています。

 

1Aは電流の流れる大きさを表す単位がアンペア(A)で、1秒間に何個の電子が通り抜けるかを示しています。 1アンペアは100ワットの白熱電球1個分にあたり、10アンペアは1,000ワットで電子レンジ一台分を使用することができる量です。

 

半導体と聞くと、CPU(ロジック半導体)やメモリ(メモリ半導体)のイメージが強いのではないでしょうか。

https://tbwr.blog/what-semi-conductor/

それらは人間で例えるとロジック半導体、メモリ半導体は計算や記憶を司る「頭脳であり」、パワー半導体は「筋肉」であるといえます。

ではどのような働きをするか。

パワー半導体の働き

パワー半導体には次の4つの働きがあり、いずれか1つの働きによって電力を制御し、マイコンやモーターへ供給します。

マイコンとは、CPUやメモリを1つのLSIチップに集積した回路のこと。

・コンバーター
交流から直流に変換。例えば、家電は直流で作動するため、発電所から流れる交流電圧からの変換が必要になります

・インバーター
直流から交流に変換。コンバーターが直流に変換した電流を再度、交流に変換し直します

・周波数変換
交流の周期を変える。特定の周波数でのみ動く機器に用いられます

・レギュレーター
直流の電圧を変換する。主にコンバーターの電圧を安定させるために用いられます。

 

この4つの働きの中で、よく耳にするのがインバーターではないでしょうか。

エアコンのカタログなどには、製品の省エネ性をアピールする要素として「インバーター搭載」となっていることがあります。

では、インバーターエアコンと、そうでないエアコンはどう違うのか。

それはインバーター非搭載のエアコンでは、エアコンを動かすモーターをフル回転させるか、止めるかのどちらかしかない。言い換えれば、モーターのオン/オフしかできず、極端な動作で無駄な動きが増える。

一方、インバーターを搭載していれば、モーターの回転数を自由に変えることができ、無駄な動きが減らせ省エネ化できます。インバーターがモーターの回転数を自由に変える仕組みは、モーターへの電源供給を高速にオン、オフし、そのオンとオフの時間の割合を自在に変えて、回転を制御している。

インバーターも突き詰めると、モーターをオン、オフしているにすぎません。このオン、オフを行うことをスイッチングと呼び、このスイッチングを行うのがパワー半導体です。インバーター以外のコンバーターや周波数変換、レギュレーターなどでもパワー半導体のスイッチング機能を使って行います。

パワー半導体デバイスの種類

・ダイオード

電気の流れを一方通行にする電子部品です。 トランジスタやICなどと同じ「能動部品」と呼ばれます。 半導体を用いた基本的な部品です。 電気の流れを整えたり、電圧を一定にしたり、検波したりできます

・トランジスタ

弱い電気信号を強い信号に変える増幅器としての役割や、電気信号の流れを高速に ON/OFF するスイッチとしての役割を果たす小さな電子素子です。

・サイリスタ

サイリスタは「ダイオードにゲート端子をつけたもの」「トランジスタの接合面を増やしたもの」など様々な呼ばれ方をされますが、簡単に言うとスイッチングによって電流制御を行う電子部品です。

ダイオードともトランジスタとも異なるのが、三つの端子を持っていること。

それぞれゲート、アノード、カソードと呼ばれ、ゲートが制御端子、アノードが正端子(陽極)、カソードが負端子(陰極)となります。

このカソードに電圧印加を行うことでアノード=カソード間に電流を流し、制御を行う半導体素子です。

トランジスタのように増幅は行えませんが、大電流に耐えられることが大切な特徴となります。

 

半導体デバイス
半導体を用いた電子部品のことを、半導体デバイスといいます。

 

半導体デバイスは、応用分野の拡大と電子機器の進化に伴い、多くの種類が生まれました。トランジスターダイオードのように1素子が単独の機能を持つものをディスクリート(個別半導体)といいます。複数の機能の素子を1チップに載せたものがIC(集積回路)で、メモリーやマイクロプロセッサー(MPU)ロジックICなどがその代表です。ICの集積度を高めたものがLSIです。一般的な機能・構造による分類を以下に示します。

 

つまり

 

電子機器へ電力を供給したり制御したりする役割を担うデバイスを指します。

モーターの駆動や交流と直流の変換といった“力仕事”がパワー半導体に課せられた役割ですが、高性能化に伴い現在は1000ボルト以上の電圧を取り扱うことが可能で、大出力モーターに対応し、具体的には産業機械向けが多いです。今後はEVシフトが本格化する自動車向け需要が顕著に伸びていくと予想されます。

パワー半導体と自動車業界

日本の電機業界が、現在の自動車業界のEVシフトに希望を見出しています。

この電動化の技術的な視点でのカギは“パワー半導体”にあります。

一般的な電気自動車の仕組み

エネルギー源であるバッテリー、動力出力機構であるモーター、さらにモーターの出力を運転者の意思に沿わせて自在に変化させるインバーターから構成されます。

インバーターは六つのパワー半導体から構成され、このパワー半導体は地球上で2番目に多い元素であるシリコン(Si)から成り立ちます。

パワー半導体の変化

20年1―3月期はテスラが17年に投入したEV廉価車「モデル3」が全米トップセールスを記録。さらに、新車・中古型車を含む全自動車販売台数の21%(2万7700台)を同社の全EVが占めました。

電機業界としての大きな変化は、これまでのパワー半導体が前述のシリコン(Si)で構成されているのに対し、モデル3は量産型EVとして世界で初めてインバーター向けパワー半導体として炭化ケイ素(SiC)を搭載したことにあります。

このEVの高性能化に直接影響を及ぼすのは、パワー半導体のエネルギー損失。

パワー半導体により構成されるインバーターは、電気的に直流(DC)であるバッテリー電圧を、パワー半導体がスイッチとして機能する。プラス側とマイナス側にスイッチングして振り分けることで交流(AC)を生成し、所望のモーターの駆動を担う。

パワー半導体は理想的なスイッチとして機能したいが、現実には電流導通時、加えてスイッチング動作のオン・オフ時にそれぞれエネルギー損失が発生する。そして、電気的な損失は全て熱としてインバーターから放出(発熱)される。

この発熱を抑制するため放熱機構が必要となり、結果として電動車の居住空間を狭め、車重を増加させる。

電力変換用としての半導体は長期間、Siパワー半導体が使用されてきた。1970年代から研究が続けられてきたSiCパワー半導体は、その材料特性によるエネルギー損失の低減効果に、省エネルギーへの期待が寄せられてきました。

SiCパワー半導体のEVシフトへの貢献

SiCパワー半導体の電動車への適用は、前述の電流導通時、スイッチング時の双方のエネルギー損失低減を実現できます。

インバーターの高効率動作による一回の充電に対、航続距離の延長が実現。

SiCパワー半導体を搭載したテスラのモデル3は、その航続距離性能が市場に受け入れられ、新型コロナウイルス禍においても販売増となりました。

これらパワー半導体と電動車を融合し、低炭素社会を実現する次世代技術を開発することは、日本の自動車産業及び電気産業が世界を牽引するカギとなります。

パワー半導体業界

パワー半導体の世界市場で上位を占めるのは、ドイツのインフォニオンテクノロジーズやアメリカのオンセミコンダクター、スイスのSTマイクロエレクトロニクス。日本では三菱電機やローム、東芝、ルネサス エレクトロニクス、富士電機が世界シェアを占めます。

世界で活躍する国内製造業の雄

三菱電機

三菱電機は日本企業の中では、パワー半導体でトップのシェアを誇っており、2017年に発表した事業戦略において、パワーデバイス事業を成長牽引事業と位置付けています。

産業機器、鉄道車両用インバーターやエレベーターなどの重電システム、家電といったパワー半導体を使用する機器を自社で手掛けていることが強みとなっており、2017年度は1,300億円だったパワーデバイス事業の売上高を、2022年には2,000億円にまで引き上げることを目指しています。

富士電機

富士電機は、自動車や産業機器の分野で使用するパワー半導体を供給しているメーカーです。2019年に発表した「2019~2023年度中期経営計画」で、「パワエレシステム・パワー半導体」を成長戦略の中核に位置付けており、5年間でパワー半導体への1,200億円の設備投資を予定しています。また、2023年度のパワー半導体の売上高の目標を2018年度の57%増の1,750億円としています。

パワー半導体の世界市場の規模は、2030年は4兆2,652億円に達すると予測されています。

※出典:富士経済グループ

パワー半導体は、脱炭素社会に向けた国際的な取り組みが加速するなか、EVや再生可能エネルギー分野で不可欠のデバイスとして注目されています。

まとめ

日本の半導体業界は、1990年代後半以降、総合電機メーカーからの半導体部門の分社化や分社化した企業間での統合が進められました。

その後、ビジネスでの競争力を失い失敗したことから、そうした手法自体が間違っていたかのように論じられることがあります。

しかし、日本のパワー半導体ビジネスの核になりそうな企業として期待されるのが会社を3分割することが決まった東芝です。

東芝が実施する会社分割では、デバイスカンパニーが発足する。HDD(ハードディスク装置)やニューフレアテクノロジーが扱う製造装置なども持つが、メインは、パワー半導体でです。

デバイス事業が独立したことで、独自戦略を描くことができるようになり、成長に向けて進んでいます。三菱電機や富士電機などの我らが日本起業が団結すれば、数字上で1兆円企業が生まれます。

また、デンソーなどとの連携もあり得るかもしれません。

https://tbwr.blog/denso-commentary/

ロジック、メモリ半導体ではアメリカや韓国、台湾に遅れをとった日本企業ですが、パワー半導体分野では近い将来、世界を牽引するのではないでしょうか。

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この記事を書いた人

IT業界で製造領域に携り7年

業界知識や課題、採用、転職、お金にまつわることなど、
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